Artist Interview

#05

堀畑蘭

 

日本を代表する色絵陶磁器の九谷焼、その地石川県で作陶されている堀畑蘭さん。
この地に生まれ、この地で育ち、そして陶芸家に。
彼女が描く絵付けのイメージ通りの優しく穏やかな印象のお人柄で、話すのが得意ではないですと前置きをして、じっくりゆっくりと考えながらお話してくださりました。


ープロフィールを見させていただくと、高校生の頃から陶芸の道に進むことを決められていたように感じます。
陶芸家になった経緯を教えてください。

堀畑さん:
実は、高校生の頃は全然考えてなかったんです。
もともとは絵画教室に通っていて、作ること、描くことが好きでした。
そんな中、高校も何となく普通高校よりそういうことをメインにした高校の方がいいかなと思い、石川県の県立工業高校の工芸科に入り、2年生から染色、漆芸、陶芸、造形という4つのコースに分かれていて、この中ではやっぱり陶芸が人気で、私も土を触りたいという気持ちがあったので、陶芸に進みました。とにかく実習の時間が楽しくて!3年生になったら数学の授業が無くなって、1日実習という日もあり、毎日楽しく通っていました。
その当時はまだ九谷に目覚めてはいなくて、高校3年生の夏まで求人情報を見て就職するつもりでいました。
でも何となく自分のやりたいことがわからずにいた時に、友人に九谷焼技術研修所のオープンキャンパスに誘われて参加したんです。
陶芸は実習の時間に作りたいものが作れる感覚でいたんですけど、その延長線上があるという事を知って、当時まだ職にするとは思ってはいなかったのですが、まだやりたいことは決まってないし、土を触っていたいという思いから、研修所に入りました。
研修所では九谷の面白さや、純粋に作ることが楽しくて、こういう職に就きたいと言う希望が見えたんです。
そんな時、先輩作家の森岡希世子さんが講師として授業してくださる時間があって、その中で森岡さんがデンマークに留学されてフォルケホイスコーレに行かれていたことを知り、興味が沸いて自分で調べて、就職する前に行っておこうと思い、デンマーク留学に行きました。

器のある暮らし:
デンマーク留学はそういう経緯だったんですね。
人と人の出会いって本当に大切ですね。

堀畑さん:
窯元に勤めるきっかけは、研修所での3年目に実際のデパートの店頭で自分の作った食器を販売するという授業があって、そこで初めて食器というものに向き合ったんです。
どういう形がいいだろうか、どういうものが手に取ってもらえるだろう、そう考えて作り、実際に店頭でお客様とお話した時に、食器作りを楽しいと思えて、そこから完全にシフトチェンジしました。
そして食器を作るのであれば、数を作れないとご飯食べていけないなと思い、窯元に勤めようと決めました。
普通の窯元だと生地を作る人と絵付けする人が分かれているんですが、私は将来見据えたときに自分の考えた生地で、自分の考えた絵付けをしたいっていう気持ちが強くあったので、一貫して1人の作り手が制作できる九谷青窯に勤めました。
直接お客様と商談があったりして、直接的に独立しやすい環境を身につけられた部分が、大きいと思っています。

器のある暮らし:
新しいことに挑戦する意欲を持ち様々な事を経験して学び、そこから食器の道だと決めて独立までのプランを立てられた、ご自身の進む道を的確に選んできた結果なんですね。

堀畑さん:
そうですね、導かれているというか…
研修所の仲間たちは自分の作品1つに対して、すごい自分の気持ちを込めて制作しています。でも私は食卓に並ぶとか、料理を盛り付けるという一つの課題に対して自分らしさを加えて作る方が、作りやすい性格なのかなと思っています。

ー九谷焼らしい華やかな色使いや、呉須の濃淡で美しく表現した絵付けがとても素敵な堀畑さんの器。器作りへの思いや、ルーツ、インスピレーションとなるものはどのようなことやものか教えてください。

堀畑さん:
上絵は古い焼き物が好きで、リスペクトしています。大胆な構図だったり、古風なものが好きです。
マットで仕上げている洋風のデザインは、マット釉をのせた時の色合いの発見から西洋のヨーロッパみたいな絵を書いたら、すごくシックに仕上がるんじゃないかなって思って描き始めたのがきっかけです。
イメージはフランスのお皿のプリント絵。でもそれとは違って自分の手書きにすることで、全く別のものとして素敵なお皿が作れるのではないかと思い作っています。
他のお皿(堀畑さんが作られる九谷らしい絵付け)と一緒に並んだ時に全く違うものを作るんだなって思われてもいいし、でもまとまるねっと思われたいから、そこまで離したくないという気持ちもあって、同じ空間にあっても全く別物にならないように、という事に気を付けながら制作しています。

器のある暮らし:
使っている粘土や絵具は九谷のものを使われていて、九谷の伝統を重んじてる部分とご自身の感性をぶつけてチャレンジしているところに、とても新しさを感じます。

堀畑さん:
そう言ってもらえて嬉しいです。
もちろん昔から作っている色絵の雰囲気も好きで、今後は拘った絵付けやその時に力を入れて作った1点物などを、個展や展示で見せていけたら良いな思っています。


―作品を制作するうえで、大切にしていることや心がけていることはどのようなことですか。

堀畑さん:
食器なので、単体で仕上がるものじゃなくて料理を盛り付けて完成するものだと思っているので、いつも盛り付けられた時を想像しながら作っています。
と思いながら、書き込みすぎちゃう時もあるんですけど…
手に取ってくれた人があれものせたい、これものせたいって想像の広がるものになったらいいなって、思いますね。

器のある暮らし:
おっしゃっている事、堀畑さんの器から感じます。
もちろん全面に絵が来るケースもありますが、器の周りに絵が入る感じとか、ちょっと食い込みながら絵が入ってくる感じがあって、お料理と協調しやすいものが多いという印象です。

堀畑さん:
使う方はお料理を盛り付けた時を考えて購入されると思うので、大切にしています。

器のある暮らし:
マグカップを持ちながら、話してくださった拘りのエピソードも印象的。
「あのマグかわいい!」って言われるのは飾ったり置いたりした時の面、でも自分が持った時に見える面も可愛くありたい。
だからどちらの面も絵付けは必要で可愛く仕上げたい、その思いから世間一般的に多い右利きの人に合わせて持った時の面をメインに、絵付けをするようにされているそう。
常に使う人の心情に寄り添うことを考えられているんだなと、話される言葉の端々で感じました。

ー今回コーディネートに取り入れさせていただいた器について、堀畑さんのこだわりのポイントを教えてください。

堀畑さん:
黄花シリーズは、器の形から入って、最初に出来たのが7寸の平皿なんです。
マット釉を使う前の話なんですが、丁度ヨーロッパっぽい洋皿を作りたいと当時も思っていて、輪花的な形が可愛いと思い、型を作って、そこに何とも言えない和じゃない花を描きたくて仕上がった器です。
よく聞かれるんですけど、何のお花っていうのはないんです。
学生のころから描いているオリジナルのお花、なので「黄花」って呼んでいます。
あと、マット釉の上に絵付けをしているので、ちょっと浮いて見えるというか、立体的に見える感じがあるのもポイントです。

器のある暮らし:
堀畑さんと言えば的な代表作になりつつある、器ですよね。
ローズマリーの器も持っているんですが、こちらはどんな思いが込められていますか?

堀畑さん:
これは、ローズマリーを書いてみようって思って。
染付の鉄絵の呉須ってすごく濃淡が出やすいんです。濃いところと薄いところの色味が変わる、その変わる感じが面白くて、描いてみたことから誕生しました。さらに、縁にプラスすることでこの雰囲気を出したんですが、あるのとないのとじゃ全然違うんですよ。

ー暮らしの中で欠かせない「食べること」に直結する器、そんな今の暮らしの在り方やその中での器の在り方について、どのように感じられているか、教えてください。

堀畑さん:
食事は生活する上で基本的なこと、なので絶対に必要性がなくなることはないもの。
私は今は求められていることを有難く思って作っていて、皆さんがこれがいいかなあれがいいかなって選んで買ってくださっていると思うと、嬉しい気持ちでいっぱいです。
100円均一の器でもいいっていう人もいるし、ニトリでも今すごい軽くて割れないお皿とかありますし、それが良いという人もいる。
でもやっぱり私も、他の作家さんの器とか、自分の器を自宅で使ってみたりして、ちょっとテンション上がるというか、いつもの普通の料理例えばハンバーグとか、パスタがワンランクアップするというか、視覚の効果によって味も変わってるように思います。
やっぱり器の力ってあると思うんです。
そういう器に私の器もなってると思ったら、とても嬉しいです。

器のある暮らし:
年数を重ねていけば重ねていくほど、堀畑さんの器たちが自分の手元から放たれて、各ご家庭で大活躍してくれていくわけじゃないですか。
本当に、とても素敵な事なお仕事ですよね。

堀畑さん:
そう思うと、すごく頑張ろうと思います。
本当にその通りなんですけど、同じ器を沢山作っているとそれを忘れそうになる時とかもあるんです。でもこれ一つ一つが違うご家庭に行くんだなと思ったら、頑張らなきゃなって思います。



ー最後になりますが、今後取り組んでいきたい新しいことはありますか?

堀畑さん:
釉薬をもっと勉強して、形で見せる器、絵を付けない器にチャレンジしてみたいと思っています。
今作っている絵付けの器は、言ってもお料理を選んでしまうことがあります。
なので1つ良い釉薬が作れたら、形もこだわって作りたいなと思います。
実際自分が素敵って思うものは、釉薬のものが多かったりもして、青磁の色が好きです。
でもオリジナリティを出すのって本当に難しいと思うから、ひっそりとやろうかなと思っています。

器のある暮らし:
ご自分の事を陶芸においては超エスカレーター人間とおっしゃっていた堀畑さん。
小さい頃は絵画教室に通い、学生時代身近に陶芸があり、九谷の上絵具がある中で学び吸収され来た経緯を伺い、モノづくりへの思いやそのチャレンジ精神に今後の展開が待ち遠しく、楽しみになりました。

使っている筆と筆置きをご紹介してくださり、この筆置きは学生の頃の自作品との事!
可愛い作品とそれを大事に使われている姿に、よりファンになった私でした。

 

ー堀畑蘭プロフィールー
1994年 石川県生まれ
2013年 石川県立工業高等学校 工芸科 卒業
2016年 石川県立九谷焼技術研修所 修了
2017年 デンマーク ボーンホルムス・ホイスコーレに4か月間留学
2017年 九谷青窯入社 3年間勤務
2020年 独立 石川県能美市で作陶
2023年 石川県野々市市に工房を移す